11 海外調達で失敗を繰り返さないために その4

4 外観の品質検査基準は、適正レベルに変更

イグレン 加藤 文男

 外観の検査判断基準、つまり汚れやキズに対する判定基準は、日本と海外では大分開きがありました。海外では、製品の外観の汚れや少しくらいのキズはあまり気にしないようです。特に材料や部品は、機器の内部に組み込まれて、完成すると外から見えないためにほとんど問題にされませんでした。しかし、日本企業は、製品の外観の少しのキズや汚れをたいへん気にします。

ある時、台湾である家庭用電気製品の工場を見学する機会があり、この検査基準が厳しすぎて海外調達価格が高くなっている現実を見せられました。その工場では、家庭用電気製品(OEM)を製造しており、欧州企業と日本製造委託業者から製造委託の生産ラインがあったのです。その家庭用電気製品は、デザインは少し異なりますが機能や性能はほとんど同じでした。しかし、二つの生産ラインの長さが違うのです。日本企業の製品の生産ラインは、作業者が二人多いのです。日本企業は外観検査が大変厳しく、それに対応するために中間工程と最終検査に「外観を検査する作業者を追加しているのです」とその工場の社長さんの説明でした。

同じ品質管理体制で製造される家庭用電気製品でも日本向けの生産ラインには、検査員を2人多くつけているので「納入価格も高くいただいています」とのことでした。厳しい検査基準が、生産ラインに余計にコストをかけている実例を見せられたのです。このように比較されるとよくわかりますが日本の業者は、過剰品質と思われるものを要求しており、結局調達価格が安くならない原因となっていたのです。

材料や部品の外観の汚れやキズは、それに使用される素材や原料の時からあるものと製造工程の作業中に取り扱いが良くないためにつくものがあります。5Sが徹底されている工場では、普通の正常な原材料が使用され、きっちり管理された製造工程で製造される部品には、キズや汚れなど発生することは考えられません。キズや汚れは、作業者が材料を手荒に取り扱うなど工程内に問題があり、管理状態にないために発生すると思われてきました。

「管理されていない工程」では、キズや汚れ以外に機能や性能など不良が混入していることが多いのです。従って、日本の製造業は、キズや汚れの有無で5Sや品質管理体制がなされているかどうかを確認してきたのです。このようにして、日本の製造業は、5Sや品質管理体制の徹底で「Made in Japan」が欲しいといわれるような評判の良い品質を作り上げてきたのです。秋葉原などでは、同じブランドでも「Made in Japan」を確認して購入する外国人観光客が今でもあるのです。

部品などの海外調達では、機器の内部に使用され、少々のキズや汚れは問題ないと思われものに対しても厳しい検査を実施し、調達価格が高くなっていることもあるのです。海外企業の品質が向上し、価格競争が大変厳しくなってきたことを考えると海外調達における外観のキズや汚れに対する厳しい検査基準も見直す必要がありそうです。しかし、簡単に外観検査の判断基準を緩めてはいけません。必ず、工程の品質管理が適切であるかどうかの確認が必要です。工場が調達する原材料の検査状態、作業者のモノの取り扱い方、工場全体の5Sの徹底など一定の基準以上であるかどうかの確認が必要です。

国内調達では、調達する材料や部品の外観の検査基準や判定の限度見本などあまり厳しくしなくても発注者の意図を組んで対応してくれます。しかし、海外調達の場合は、慣習や文化、更に考え方が異なり理解を得ることが難しいものです。取引先の実際の製造工程を直接確認すると共に仕様書や検査基準、更に限度見本(サンプル)を準備し、相互に誤解のないようにしたいものです。

掲載日:2016/05/01

コメントを送信する

* が付いている欄は必須項目です