イグレン 加藤 文男
海外調達において担当者は、品質問題で大変苦労をしています。品質問題には、大きく分けて製品の外観の汚れやキズ、勘合部の組み上がりなどの「できばえ」品質と不良率が高いことの二つがあります。
(1)外観「できばえ」の検査基準が緩い海外調達
まず、材料や部品の外観の汚れやキズの判断基準が異なります。海外では少しくらいの汚れやキズが付いていても実際の使用上問題ないと考えて良品として出荷します。特に製品の内部に組み込まれて製品として完成した時に見えない材料や部品については、全くと言ってよいほど問題にしません。また、ケースなどの板金組み立て製品の勘合部の左右の隙間に違いがあっても問題にしません。
海外企業では、「実際使用する上で問題ない」「見えない部分だから問題ない」と少々のキズや汚れは問題にしません。しかし、日本の企業は、これらの汚れやキズを問題にされることが多く、そのギャップが大きいのです。
日本の考え方からすれば、指定された正しい材料を使用して、正しい作業をすれば製造された材料や部品に汚れもでないし、キズもできない筈です。指定通りの寸法の材料を指定通りに組み立てれば、勘合部の左右の隙間も少なくなる筈です。従って、キズや汚れが発生する工程には、何か異常があり、正しい作業や測定が行われていないことも考えられます。小さなキズや汚れの発生する製造工程には、キズや汚れだけでなく、もっと大きな問題例えば、性能不良や機能の問題の内在する可能性があるのです。小さなキズや汚れを問題にする根底には、その工場全体の品質管理体制や品質管理能力の不備という疑問も持たれるのです。
(2)不良品が混入するのは仕方がない
欧米系の企業は、量産する製品や部品の中に「ある程度の不良品は含まれていることはやむをえない」「仕方のないこと」と考えられてきました。この考え方は、数多くの部品を使用し、何人もの作業者が組み立てする工程で100%すべて良品にすることは不可能であるという考えからスタートしています。従って、ある一定以上の比率の不良品が含まれていなければ問題にしなかったのです。極端に言えば、不良部品が含まれていれば、「使用する時に見つけて取りのぞき交換すれば良い」と言う考えです。だから想定される不良の数量を予め見越して余分に納入させることで解決していたのです。製品の生産が終わった時に部品に不足なく、計画通りの数量ができればあまり問題にはしないのです。
しかし、日本企業では良品100%の考え方です。ある工場の製品の「不良率が0.001%以下です」と自信を持って出荷しても、もし購入者が不良品に当たれば、その人にとって100%の不良率になり、大変迷惑をかけることになります。だから、お客様には、「不良品を渡してはいけない」「良品100%でなければならない」というのが日本企業の基本的な考え方で品質に適当に妥協することはしないのです。
若い人は信じられないことかもしれませんが、戦後日本の製造業が欧米へ輸出し始めた当初、日本の電機機器製品は、品質が大変悪く、「安かろう 悪かろう」と言われていました。現地の受入検査で問題が見つかると手直しのために作業者を海外出張させて、倉庫の片隅で修理手直しをしていたのです。時には販売した消費者のところに出かけて修理することもありました。不良品の回収です。不良品の出荷は、お客様からの評判を落とし、販売できなくなるだけでなく、大変な費用の負担を強いられたのです。結局、最初から工場で不良率の少ない製品を製造する方が安上がりであると気が付いたのです。
当時、大学の先生や大企業の技術者も欧米から生産管理や品質管理などの管理手法を学び始めていました。欧米から学んだ管理手法や簡単な統計的手法を大手製造業が導入し、不良の原因を分析し、問題を解決し始めたのです。製造業では作業者がQCサークルを結成し、QC活動だけでなく、提案活動や改善活動を行い、製品の品質をどんどん高めてきたのです。そして、現在のように世界中から「Made in Japan」が欲しいといわれる高い品質まで築き上げてきたのです。国内調達では、原材料の品質は、不良率でもその「できばえ」でも大きく裏切られることがなくなりました。
最近、海外調達先の工場でも5SやQC活動が行われるようになってきました。しかし、まだ海外から期待通りの品質を確保することは難しい状況にあります。