イグレン 加藤 文男
系列破壊といわれていますがかつて国内調達では大手企業と下請企業の間では、次のような特殊な取引関係が行われてきました。現在もこの関係は一部で残っているようです。
(1)系列下の国内企業は営業担当者が不要だった
大手組立製造業企業の原材料の資材購買取引先は、プラスチックの金型は、A社、成形はB社、コネクターはC社という具合に決まっていました。年度初めには、系列傘下の下請企業が集められ、その年に販売する生産機種と販売数量の概要に関する説明会が開催されました。各品種や機種に使用される原材料部品の注文は、大きな品質問題を起こした企業やよほど非協力的な下請企業でない限り、継続して注文が来ることは間違いない。系列関係にある企業にとって親企業が裏切って原材料の注文を他社に出すことはありえなかったのです。親会社の販売計画が決定すれば下請企業はその年の販売計画の概要が決定したのです。ただし、価格は年度のコストダウンと称して削減率や具体的な購入価格が伝えられ、協力することが強く要求され、交渉の余地は多くはありませんでした。
このように系列傘下の下請企業にとって営業担当者は必要としなかったのです。
(2)先行手配で納期短縮に協力する国内調達
新製品の開発販売に関する情報は、一定以上の技術力を有する下請け企業が集められ、概要や販売数量と販売開始時期が「新製品開発販売計画」として発表されました。
新しい金型を必要とする樹脂成形品やモジュールなどの重要な新規部品の開発は、親企業の設計者と下請企業が共同で進められました。
樹脂成型品を例にとれば、新製品の販売時期が決まれば、金型の大きさや使われる材質、使用される樹脂の原材料の供給時期も大体判断できました。新製品開発では、営業部門の要求へ対応や仕様の決定の遅れは当然のように発生します。設計図面の完成を待って金型材料を手配していたのでは間に合いません。使用される樹脂原料も色の調合などで先行手配を必要とする時もあります。この時点では注文書は出されません。しかし、注文が来ることは間違いないと判断し、先行手配をしたのです。
このように系列傘下の下請企業は、独立した企業であっても新製品の販売時期に間に合わせるためにあたかも親企業の一部門のように新製品発売時期に間に合わせるために必要な原材料を先行手配するのが当然になっていたのです。これが日本の系列などと表現された親企業とその下請企業の関係の典型でした。
(3)小さな仕様変更は無償で対応した国内調達
製品の設計が完了し、原材料や部品のリストが作成され、注文書とともに仕様書と図面が届き、作業が始まるのが普通です。しかし、新製品の開発には、トラブルがつきものです。十分検討したつもりでも仕様書の作成や図面の完成も遅れました。
使用する原材料、部品に設計の不備が発見されるとそれを修正して日程通りに完成するのは下請企業の当然の仕事になっていました。設計ミスに近い仕様変更は、よほどの大きなロスがない限り、下請企業がほぼ無償で修正や手直しをして納期に間に合わせる協力をしたのです。へたに設計部門のミスを追及すると「話の分からない下請企業」として次回の新製品開発時に取引企業から外される恐れもあったからです。
(4)ソフトウエアの遅れを徹夜で完成した国内下請企業
電子機器、電気機器には必ずと言ってよいほどソフトウエアが使用されるようになりました。機器の性能が向上し、機能が複雑になるとソフトウエアも大きくなり、完成に時間がかかるようになります。最初ソフトウエアの作成と修正は社内のエンジニアで対応してきました。開発初期の段階でその不備が発見修正されるので問題がないのですが開発の進行が進んだ段階でのバグの発見は修正に膨大な時間を要します。
営業部門は、販売日程を決定して早々と発表しており、市場では、新製品の競争が激しいために新製品発売の遅れは許されないと圧力をかけてきます。
ソフトウエア開発の日程の遅れも最初は社内のソフトウエアエンジニアが対応していきます。しかし、開発日程が進行し、納期の無理なことが分かると開発途中で日程通りに完成するよう強い要求と共に親企業の指定するコストでソフトウエアハウスに丸投げされました。丸投げされたソフトハウスは、2次、3次の下請けソフトハウスまで駆り出して、日程に合わせるべく何日も徹夜作業をして完成させてきたのです。この時、このIT技術者は自嘲気味に「我々はIT土方(アイティーどかた)だ」と言っていました。
新製品開発段階の無理な日程やコスト削減は、原材料を製造する下請け企業やソフトウエアを開発する下請企業にしわ寄せされました。国内調達では、多くの下請企業が短期間で新製品開発するために親企業をサポートしてきた背景があったのです。
海外調達では、取引先は打ち合わせをしても注文書が届くまで行動を起こしません。海外の取引先は注文書が届くまでリスクを冒してまで原材料の先行手配は行わないのです。国内調達とは大きな違いです。