1 海外調達は国内調達と何が違うのか

現在の海外調達担当者も苦労と失敗の経験が多いのです

イグレン 加藤 文男

 従来の国内調達と海外調達では、手続きやルールだけでなく、慣習や文化も大きく異なります。はじめて海外調達担当者として任された時には何から手を付けてよいか判断に迷うところです。また、国内の取引に慣れてしまった資材担当者には、従来の国内調達の方法との違いに戸惑い、慣れないために失敗することもあります。現在、海外調達や海外生産を上手に推進している海外調達担当者にも失敗や経験を重ねている方が多いのです。

国内調達と海外調達の大きな違いには、次のようなことがあります。

 1 日本の系列は取引の特殊な形態
日本の組立製造業では、長い間産業の二重構造とか、三重構造、系列と表現された親企業とその下請企業の関係のもとで原材料、部品の調達が行われてきました。特に系列の傘下で国内調達を進めてきた大変都合のよい取引形態は、親企業の資材購買関係者だけでなく経営トップにとっても、海外調達は戸惑うことが多いのです。この系列のもとでの取引は、日本独自の特殊な形態であり、海外との取引では大きな違いがあり、認識を改める必要があるのです。

2 品質についての考え方の違い
海外調達では、欧米の製造業へ部品を供給してきた海外製造業との間に品質についての考え方について大きく異なり、戸惑うことが多かったのです。初めて海外調達した原材料、部品が日本に届いて検査段階でその違いに驚かされたものです。現在順調に海外調達している企業でも、当初考え方がこんなに違いがあるのかと相当戸惑った経験があった筈です。
品質に関する考え方の違いの一つは、不良率が大きいこと、もう一つは、汚れやキズ、寸法精度による外観検査による判断基準の違いでした。

3 仕様変更は、再見積もりとなる
打ち合わせをして注文書を発行した後の仕様変更は、些細なことでも再見積もりになることです。国内調達では問題にならなかった程度の些細な仕様変更も海外調達では費用負担の請求や購入価格変更の理由にされるのです。原因は、設計部門の仕様書の完成度の低さが多いのですが取引先の担当者は、少しでも高く販売しようと色々理由を探しているのです。仕様変更は再度の見積もりになることが多いのです。

4 注文数で見積金額が大きく変わる
年間の発注数量や注文書の発注ロットの大きさで契約価格は変わります。発注数量が多ければ調達価格は安くなります。発注ロットを大きくし、個別の納入時期と数量を指定することもできます。欧米の大手の製造業は、マーケティングもしっかりしており、全世界へ向けた販売計画を作成しており、発注数量の桁が違っていた。年間に販売する製品の数量が大きく、少なくても数十万個、多い場合は百万個の単位で価格の交渉をし、取引に責任を持ってきました。日本の製造業は、マーケティングの不十分さで発注ロットが小さく、交渉力が小さく苦労したものです。

5 会議の議事録は注文書ではない
海外調達の担当者が初めて海外取引先へ出かけて打ち合わせをし、品質、価格、納期を約束し、議事録を作成して帰国しますが途中経過を確認して進行の遅れに驚かされます。理由は、注文書が届いていないことにあったのです。
国内では、調達に関して会議が開催され、議事録があれば、お互いに注文が来ると信用して行動を起こします。しかし、海外調達では契約書である注文書が届かないと正式の注文とみなさないのです。取引は契約書(注文書)で始まることはよく承知しているのですが国内の取引とは全く違う現実をよく認識する必要があります。

6 国内調達より納期が長い
調達先が海外だから輸出手続きや輸送期間が国内に比較し、納期が長くなるのは当然です。取引先が製造し、日本へ発送するまでの相手国の税金や通関手続きなどの輸出手続き、輸送ルートや輸送期間も想定以上の複雑な手続きや手間、輸送期間がかかることがあります。また、取引相手先の担当者の納期を守ることに対する考え方など違いもあります。

 7 利益を左右する外国為替の変動
海外調達の目的の多くは、円高により日本より安く調達することにあったはずです。しかし、最近のように外国為替のレートが円安方向に大きく動くと国内で調達したほうが安かったということにもなりかねません。1ドル¥90円の時に安く契約しても為替の変動で1ドル¥120になれば、30%以上高くなる計算になるのです。外国為替の変動には注意が必要です。

 8 グリーン調達
グリーン調達とは、原材料、商品を購入調達する際に、その生産の段階や使用中、更に使用後に於いても、「環境に与える負荷や影響のできるだけ少ないものにしようとする活動」です。温暖化をはじめとして地球環境問題が深刻に考えられる今日、我々が部品材料を購入する際、海外生産や国際調達においても、グリーン調達は心がけなければならない新しい環境に関する潮流です。

9 文化や習慣の相違
国内調達では、同じ日本の中で商売をしていたという慣習や文化があります。しかし、海外調達では、全く異なった文化の中での商習慣とルールがあると考えたほうが良いのです。日本ではごく当たり前と考えていたことが異常ということもあります。取引する国によってもルールが異なります。海外調達では、日本の文化や習慣は、異常なのです。

以上、国内調達と海外調達の違う大きな要因を挙げてみました。
次回より、これらの項目についてどのように異なるのか、どのように対処したらよいかなど色々失敗の経験を踏まえて「あるべき姿」を検討します。

掲載日:2016/03/28