イグレン 加藤 文男
1971年のニクソンショック、1985年のプラザ合意、リーマンショック等円高、更にこの間に発生した2回のオイルショックに対応するために国内の製造業は大変な苦労をしてきた。
海外から資源を輸入し、完成品に仕上げて輸出してきた製造業にとって外国為替の問題は常に悩まされ続けてきた。原材料(部品)の代替品の検討や少ない原料で十分な強度を持つ設計、製造工程の無駄を発見して改善を加え、コストダウンンを図ってきた。
円高への対応には、コストダウンだけでは解決できず、海外調達に切り替えざるを得なかった。更に輸入制限や輸入禁止政策なども加わり、海外生産へと切り替えを決断となった。海外調達や海外生産の決断をした以上、失敗は許されない。社内の体制や社員の考え方に乱れがないように体制を固め、考え方を統一することである。考え方の統一とは、国際ルールを関係者が正しく理解することである。
特に色々理由をつけて反対をした担当者やグループが後日言い訳をさせないように考え方の徹底を図りたい。
1 注文書の発行で仕事は始まる
注文書(契約書)が発行されて、契約は成立する。相手先と何度か打ち合わせを行い、仕様書を交換しても注文書が相手に届かないと取引先は動き始めない。国内の取引と最も大きな違いである。
国内では、納期の打ち合わせをすれば国内の取引先は、納期に間に合うように原材料の先行手配を実施してきた。しかし、海外企業との取引では、当方が有名な大企業でも先行手配はありえない。日本の国内調達では、産業の二重構造と言われる下請に親会社は、当然のよう協力を期待した。良い意味では、よき信頼関係で化やンセルなどないと判断して納期通りに製造するために先行手配は常識であった。海外取引では、契約書である注文書が届かない限り、いつキャンセルされるかわからないのでリスクを冒して先行手配など行わない。納期には十分余裕を見た注文書の発行が必要である。
2 仕様変更は、有償である
仕様変更に対する考え方も厳しい。価格見積もりは、購入条件と仕様書によって作成する。もし、仕様書の交換後、わずかの仕様変更でも再見積もりである。厳しい交渉の上、購入価格を決定した場合、仕様変更は値上げの良い理由となる。国内取引では、少々の仕様変更は取引先が無償で対応するのが常識であったかもしれない。しかし、国際ルールでは、これは通らない。
国内取引では、設計者のミスなどによる少々の仕様変更には無償で対応させていた例が多い。しかし、国際調達では仕様変更は値上げをする当然の理由になる。仕様変更のタイミングが遅くなるほど取引先では手配が進み、変更のための費用は大きくなる。それによる費用負担が発生した場合、当然その費用を請求してくる。
設計部門の設計の完成度が低いために後日仕様変更が発生すると費用が発生することを忘れてはいけない。国内では、少々の仕様変更は、下請企業が無償で対応してきたが海外調達ではありえない。設計者が最終仕様の確認を怠り、設計変更のために費用の請求問題が発生する。経理部門も簡単に支払いに応じない。国内の取引先に無理を強いてきた設計者ほどこの傾向は大きい。
3 販売企画数の精度を高める
見積価格は、その新製品の総販売数で決められることが多く、当初の販売企画数が少なければ見積価格は高くなる。逆にマーケティングの精度が悪く、最初に販売数量(企画数)を正確に予測できずに、大きな企画数で見積依頼し、後日契約違反で賠償請求されることもある。特に金型を使用する部品では、販売数量(企画数)の影響は大きい。従来の国内の取引では、日本の下請け企業は、企画数に大きな違いがあっても文句を言うのを避けてきた。次の新製品取引を期待するのがその理由であった。しかし、海外企業との取引では、従来の国内取引と同じようなことは全く期待できない。
4 販売時期と納期を明確にする
新製品の販売開始のタイミングは、新製品企画会議で決定され、営業部門はこの日程に基づいて新製品の発売計画を公表し、販売計画を立てる。しかし、設計部門の新製品の設計の進行が遅れることはよくある。調達する原材料(部品)の仕様書の決定が遅れるとその納期の大きく影響する。
競争の厳しい、市場では、新製品の発表の遅れは企業経営にも大きく影響する。国内調達では、仕様の決定の遅れなどは、先行手配も含めて取引先に相当無理を強いて日程の遅れを挽回してきた。しかし、海外調達では日程の暮の回復は期待できないと考えた方がよい。海外からの調達では、取引先の国でも日本でも通関の手続きが必要であり、納期が長い。その上、最初の段階では、取引先の国情や輸送方法など把握できないリスクがある。これらを十分把握して発注をしないと計画通りに原材料(部品)は入手できない。海外から調達するのだから納期が長いのは仕方がないと予測しても正しく把握しないと納期になって慌てることになる。海外調達や海外生産では、すべての関係者は、これらのことも理解したうえで仕事を進めなければならない。
5 要求品質水準を明確にする
国内での調達では、原材料(部品)の取引先が従来の慣習から、発注者の要求品質水準を理解しており、問題の発生は少なかった。海外調達ではきっちり取り決めておかないと納入の時期になって問題が発生し、苦労する。例えば、部品の外観の汚れやキズに良否の判断基準の違いである。国内では、製品の内部に使用される部品でもキズや汚れに対して厳しい判断をする。海外の製造業では、少しの汚れやキズは実際の使用上問題なければ良品と判断し、納入してくる。国内の取引を当然のように考えて取引を開始し、失敗した例は多い。
これらは、国際的なルールの一部であり、国内との取引の違いについてすでに説明してきた。しかし、最初は慣れないために失敗することがよくある。従来の国内の取引では、問題にならなかったことが国際取引では問題になることも多いことを理解しておきたい。