イグレン 加藤 文男
1 理論武装のための基本的知識
交渉に当たって製造原価に影響する知識
(1)原価の成り立ちに関する知識
資材購買担当者が調達する原材料は、生産された状態で購入することはごく希です。特に、天然資源の少ない日本では、原材料や素材を輸入し、加工されていくつかの物流経路を経由して購入することになります。それぞれの調達する原材料が加工され、供給されるまでの間に付加価値がつけられ、管理費用や手数料が付加されて購入価格が決められます。調達する原材料の原価の成り立ちの基本を理解しておきましょう。原価計算など原価管理の考え方については、No.24からNo.27に詳細に説明しました。参照していただきたい。
(2)経済情勢・社会情勢に関する知識
調達する原材料の価格は、社会情勢や経済情勢の変化により、常に変動しています。また、海外から輸入する原材料については、外国為替の影響も少なくありません。生産国の需要供給体制の変化だけでなく、広く世界の動向に関心を持っておくことが大切です。
(3)市場動向に関する知識
購入する原材料の価格は、原油価格、希少金属の価格など世界の生産事情動向、経済動向に影響されます。新聞、テレビ、雑誌などで常に市場価格情報に注意し、適正な価格について把握もしておきます。
(4)自然災害や事故の状況
大きな自然災害や工場の火災や爆発などの事故が発生すると供給量だけでなく価格も変動します。供給する国の水害などは、季節により、毎年のように発生する事があり、珍しいことではないために知らされないこともあります。供給する国の状況の把握だけでなく、災害や事故が発生下場合の影響や変動を予測できるように情報に関心を持っておきたいものです。
2 理論武装のポイント
購買調達における理論武装の目的は、従来の商慣習や人情だけでなく、理路整然とコストを主張できるようにすることです。交渉に際してこの基準と新しい情報を取り込んだ改訂があります。
(1)理論武装の内容
各企業には、たいていコスト理論、購入する場合の自社におけるコスト計算基準がありあす。コストの基準は、材料に関する基準、加工に要する時間の基準、加工工程やその加工に要する加工時間(工数)、管理費用などです。この基準に従ってコスト計算をします。これが理論武装の基準となります。No.25 原価管理の考え方 その2 原価計算の基礎を参照。
(2)事前に準備したい主要な検討ポイント
提示された見積価格の検討について準備しておきたい主要なポイントは次のようなものがあります。
・ 基準との差の捉え方
どこが違うのか
どれくらい違うか
それはなぜか
ではどうするか
・ 差額の原因分析
購入先別評価
購入原材料別評価
製造方法別評価
業種別評価
・ 標準コストの考え方
加工費が面積、長さ、重量に比例するか
加工費が材料に比例するか
加工費と加工レートの明確化
(3)新しい情報と知識で理論を改訂する
理論武装のための基準は経済情勢、社会情勢の変化により、変動します。
資材購買担当者は、毎日、外部から情報を入手し、内容を評価し、理論武装として準備したことに修正を加え、適切な対応策を考える作業をします。新聞雑誌、テレビ等各種メディアを通して、また、社内の会議などで毎日のように膨大な量の知識や情報が入ってきます。これらの知識や情報は、ビジネス環境を理解するための道具であり、検討するための基準になります。
購買や調達における理論武装では、必要とする原材料や部品に影響を与えそうな全ての知識や情報に気を配り、新しい情報を取り入れて理論武装の内容を改訂を継続することです。これを怠ると相手と交渉する際に正しい判断ができず、不利な条件で購入することにもなりかねません。
常に原材料、部品、材料についてコストに意識を持って交渉する相手に対応するために、既存の基準に新しい情報を付加し、入れ替えて常に正しい基準を持つことが大切です。
環境が大きく変わっていることに気が付かないで古い知識や情報に基づく基準では、相手を説得できないどころか交渉の相手にされない結果を招きます。
2 交渉力
調達、購買担当者が交渉は、取引先企業の代表者つまり、「一国一城の主」である経営者と行う場合が多いものです。企業間の交渉は、資材購買の初心者という言い訳は通用しません。取引きする原材料の性能、品質、価格だけでなく、経営という立場で対応することも要求されます。交渉力は、無理を承知で強引に説得することではありません。強引に説得したつもりになってもその相手と末永いおつきあいはできなくなります。
いかなる場合も公平、公正な態度を持って交渉する相手に対応し、誠意を持って交渉に当たります。異なった意見に素直に耳を傾けることのできる謙虚さも大切です。初心者にとって経験豊富な先輩や経営者と交渉を重ねることになり、日々厳しい仕事が続くことになるかもしれません。まず理論武装をきっちり行ない、素直な謙虚な気持ちを持って時間を掛けて知識を習得すると共に人間性を高めて交渉力を向上していきたいものです。