46 初心者も知っておきたい金型の知識 4

金型は良いコーディネータのいる会社で

イグレン 加藤 文男

 樹脂成型品も板金プレスの場合も金型製作には、それぞれノウハウがあります。特に樹脂成型金型の場合は、金型の余熱時間や成型温度、保持圧力、成型後の冷却など樹脂の原材料や金型構造により、良い成型品を製造する管理するポイントが多数あります。これ等のノウハウをお互いに共有し、量産する際に問題を最小限にすることが求められます。
金型製造においては、調整役としてキーパーソンが存在し、よい金型を製作するために常にたいへん努力しています。私はこの役割を金型の「コーディネータ」といっていますがこの用語は業界では使用されていません。資材購買初心者が金型製作担当になった場合には、このコーディネータの役割を理解し、優秀なキーパーソンの在籍する会社に注文したいものです。これが良い成型業者を選ぶポイントになります。

1 設計者、金型製造者、成型業者の三社の協力が大切
量産時のトラブルを避けるためにトライ工程が不可欠であることは前回記載したとおりです。トライ工程において問題のない成型品を製造するためには金型製造業者と成型業者の良い協力関係にあることが大切です。
コーディネータは、金型製作者も成型業者も成型品の構造や原料から適切な金型構造に関する豊富な情報を持っています。金型製作者と成型業者は、その間にはそれぞれの立場で金型構造や成型条件について要望することがあり、トライ工程において有利な方法を主張する傾向があります。コーディネータは、成型機械の特徴を良く把握し、成型品の設計者には適切なアドバイスを、金型製作者に対しては適切な金型構造の設計にアドバイスをし、トライ工程に起きて意見を調整しながら、連携して満足する成型品を完成します。

2 コーディネータの役割
樹脂成型に熟知し、最も経済的な条件で成型するノウハウを製品設計者、金型構造設計者、成型業者に対して適切なアドバイスができるコーディネータは、金型製造業者、成型業者のいずれに在籍していても良いのです。成型技術に関するシミュレーションのソフトウエアを持っており、依頼された成型品について直ちに対応できることです。その役割は次のようなものです。
(1) 成型品(製品や部品など)設計者への対応
電気機器、電子機器など製品の開発設計者は、成型品に関して十分な知識を持っているとは限りません。中には、設計の初心者もいるかもしれません。コーディネータは、設計担当者(機構設計担当者ということもあります)に対して、成型品の用途、使用される位置や部位、機能、性能、企画数量を判断し、十分な強度や性質のある適切な材質と成型時に発生する問題を防止できる構造をアドバイスする役割があります。
成型シミュレーションのデータから発生する問題を予測し、成型品の構造設計者に指導・指示できることも大切です。成型品の素材・原材料、製品構造、金型構造(2色成型、3色成型、インサート)、二次加工条件に関する知識を持って成型品の設計に関して適切なアドバイスをします。従って、製品の企画の早い段階から参画することが望ましいのです。
(2)金型構造設計者への対応
通常、金型設計者は、成型品の用途、使用される位置や部位、機能、性能、企画数量を判断し、成型品(目的物)の適正な金型構造に関して豊富な経験を持っています。コーディネータは、成型シミュレーションを通して、金型構造、ゲート位置など金型の構造に関する変更や改造を設計者に適切なアドバイスがその役割です。適切な金型の素材は、成型品の設計者が決めることが多いのですが使用する製品の企画数から成型ショット数を想定し、金型寿命を考慮してコーディネータがアドバイスをします。
(3)成型業者への対応
コーディネータは、成型業者の中にいることが多いのですが、成型品構造、金型構造から適切な成型条件をトライの前に検討し、効率的にトライを計画し、実行できることです。
成型シミュレーションのデータから成型品に発生する問題を予測し、成型品(目的物)の設計技術者や金型構造に関して十分打ち合わせと意見調整を行います。
使用する成型機、成型温度、型の余熱時間、 適正樹脂充填量、保持圧力、保持圧力時間、射出ストロークなどの保圧条件、冷却時間、ひずみの修正などトライ工程において、適切な判断と立会い者の意見調整を行い完成します。
(4)二次加工を考慮した対応
成型した完成品は、ゲート処理、バリ取り、バフ仕上げなどの仕上げ加工が必要になったり、タップたて、穴あけなどの機械加工、超音波、高周波、過熱処理などが必要になることがあります。コーディネータは、溶着に関する知識、接着加工、鍍金、真空蒸着、ホットスタンプ、塗装、印刷などの二次加工に関する知識で適切なアドバイスを行ないます。
(5)試し成型(トライ)で意見調整
コーディネータは、事前に成型シミュレーションでトラブルの発生を予測し、トライショットを効率的に行なえるように段取りします。成型品構造、金型構造、成型条件などが複雑に影響するので想定される問題の原因を分析・検討し、適切な対策方法を打ち最も合理的で適切な調整する機能が要求されるのです。
トライショットの間に完成成型品に関して予測以外の品質問題が発生することがあります。トライは、それを見つけ出し、調整するために重要な工程です。
成型条件で調整できないときには、成型品の構造変更、金型設計者に対して金型構造の変更などを要請することもあります。このようにコーディネータは、成型条件を想定して成型品設計者、金型構造設計者との調整を行なう重要な役割を持っているのです。

3 公平で妥当な判断のできる資材購買担当に
資材購買担当者は、新製品開発のできるだけ早い段階から参画し、適切な金型製造業者と良い関係にある成型業者を見つけ出し、設計担当者を含めた打ち合わせにより経済的な金型調達する役割があります。日頃より、情報収集に努め、優秀なコーディネータの在籍する業者を見つけ出すと共に、樹脂成型に関して、品質優先、納期優先、コスト優先などの成型品発注者の優先順位を理解して、製品設計者、金型設計者、成型業者に対して公平で妥当な判断をできる能力を養成したいものです。

掲載日:2016/02/02