イグレン 加藤 文男
家庭、事務所や工場で使用されている電子機器、電気機器に使用されている材料、部品は、必ずといってよいほど金型を使って製造されます。金型は、製作するに要する金額が大きく、企業の重要な資産として扱われます。金型は、板金部品や樹脂成型品を製造委託している会社に預けられており、直接資材購買の事務所で見る機会は少なくなっています。金型で製造される部品や材料の数量で製品の価格、つまり、製品を販売して得られる利益に大きな影響を与えます。金型を経済的に製作し、その後の修理に費用をあまり掛けずにその寿命が尽きて廃棄されるまで有効に使用することが大切です。
金型の製作決定から廃棄まで大体次のような工程になります。金型に関する基本的な考え方や注意事項を整理しておきます。
1 金型の事前検討
金型は、その製作を決定するに当り、事前に「本当に金型が必要か」「標準品で代替できないか」など慎重な検討が必要です。開発設計技術者は、新製品の個性やデザインにこだわり、新しい金型の製作を要望しがちです。しかし、金型の製造費用は、初心者が創造するよりも非常に高価です。従って金型の必要性の検討は慎重に進めます。
2 金型構造および材質の検討
金型の寿命は、使用する製品の製造を中止するまで使用し、さらに製造販売中止後もその製品のサービスメンテナンスの期間内は、補修部品として供給することが要求されます。
この間に使用する総数量(企業によっては企画数と言います)、ひとつの金型で一度に製造する取り数、使用する機械(成型機)などの金型構造により、使用に耐える強度が要求され、その材質が選ばれます。
大量に生産する場合や長期間使用する場合には、同じ金型を2型、3型製作する場合もあります。従って、コスト、品質、生産性などを総合的に判断して、金型の構造や材質を決定します。
3 見積依頼
製造する金型の大きさ、精度、複雑さなどを勘案して、金型に関する構造や材質を決定し、仕様を完成します。この仕様を元に適切な金型製造業者に見積もり依頼をし、見積書を取得します。金型の大きさ、材質、精密度などにより、見積要求先も異なります。この段階から適切な金型発注先の選択が始まります。金型製造の技術水準、専門知識の有無、製造実績を確認して見積もり依頼します。
金型の精度により、加工費は大きく変わります。見積書より、金型費の妥当性を検討、分析できるように切削加工、研磨加工、放電加工、仕上げ加工など構成する費用項目別に要求します。
4 価格検討
入手した見積書は、品質、金型寿命など仕様の確認を行い、価格の妥当性を評価します。最も簡単な価格の妥当性は、過去に製造した類似金型と比較です。原材料の価格変動、加工レートの変動などを勘案して検討します。
適切な加工方法、段取り短縮、金型標準化などの技術的配慮がなされているかを検討します。発注先の選定には、部品価格も含めてトータルコストを評価して、金型製造の技術水準、専門知識の有無、製造実績を確認することが大切です。
5 発注
見積に対して充分検討分析した後、発注先を確定し、注文書を作成し、発注します。発注は、図面、仕様、その他発注条件を付加します。図面や仕様書は、後日変更や修正のないように設計の完成度を高めておくことが大切です。見積依頼後構造変更など仕様変更が発生していることが良くあります。変更部分については、十分意見を交換し、見積価格を確認することが大切です。
発注後、設計変更により、図面を変更する場合には、図面番号、金型管理番号、部品番号など関連部署への徹底を図ります。発注条件、仕様変更に際して、金型価格の増減を確認し、その都度見積書を入手します。
6 検収
検査は、試作の立会い(トライショット)を実施し、初回完成部品にて行ないます。試作の立会いでは、金型実測検査、初回製品の寸法、できばえなど確認します。試作の立会いは、温度、製造に要する時間、その他の条件について記録し、品質の変化の確認に備えます。外観の「出来映え」については、諸条件を勘案し、後日相互に誤解の内容に検査のための限度見本を作製します。
研修前の試作時の立会いについては、重要なポイントを改めて検討します。
7 仕入れ処理
初回品の受け入れ検査にて合格を確認のうえ、仕入れ処理をします(検収伝票処理)。この時点で資産管理が必要になります。経理担当者との確認をしておきたいものです。
8 貸与手続き
金型を使用した部品の製造は、成型業者など下請け企業に依頼することが多くなり、金型は貸与することになります。金型は高額な資産であり、お互いの権利義務関係を明確にして、きっちりした管理をするために貸与契約を結びます。貸与契約するとき注意すべき条件として目的外使用の禁止、つまり勝手に他の目的のために使用しないことを明確にしておきます。
9 金型維持管理
(1)適切な保管
資産である金型が適切に保管されているかを常に確認しておく必要があります。貸与している相手先から決算期毎に金型確認書を入手します。また、金型の保管状況により、金型の寿命に影響します。他の金型や器材の運搬中にぶつけられて、破損することもあります。適切な広さと強度を持った棚に保管することも確認します。湿気、塵埃などのよりさびを発生し、再度使用する際にメンテナンスに費用を発生しないよう適切な管理が必要です。
毎回使用後は、防錆処理などを実施し、次に使用する際に直ちに問題なく部品を製造できる管理が必要になります。金型を保管する場所及び状況を把握しておきましょう。
(2)使用実績の管理
金型で製造される部品を製造した部品の数量を常に把握しておく必要があります。金型には寿命があります。仕様頻度が高くなると寿命に影響します。金型を使用して部品を製造した数量の管理(ショット数の管理)及び修理や改造の履歴、修理やメンテナンスを実施した時期とその内容を必ず確認します。部品の製造を継続する場合、メンテナンスで対応可能か、新しく金型を製作する必要かの判断もこの記録を確認して行なうことができます。
ショット数の管理は、成型業者などに頼りがちになります。それぞれの金型について自社で記録し、寿命を予測できるようにしておきたいものです。
10 金型の修理・改造
金型は、使用することにより、磨耗し、時には破損し、本来果たすべき品質が確保できなくなり、修理が必要になります。金型の取り扱い不注意により、破損することもあります。修理の費用負担については、事前に購買、調達担当者が立会いの上、協議決定します。
部品の仕様変更、貸与先の要望、合理化などの理由により、改造することがあります。費用の負担についても協議し、決定します。
修理や改造は、費用負担を決定の上、金型製造業者に依頼します。
11 返却
生産する依頼先を変更する場合には、できるだけ速くその理由を説明し、貸与金型の返却を求めます。倒産など貸与先の経営事情その他により、貸与している金型を使用できなくなる場合もあります。権利保全には充分注意が必要です。
製造する部品の生産を終了すれば貸与先に返却を求めます。部品の製造中止時期が決定せず、金型を成型企業などに放置されがちになりますので注意をしたいものです。
12 廃棄処理
金型は、部品の生産終了、設計変更による使用不能、磨耗や破損による使用不能などの理由で廃棄の時期がきます。部品の生産終了の際は、補修用部品として必要数を確保し廃棄手続きをします。返却手続き及び廃棄処理は、経理部門と共に行ないます。