イグレン 加藤 文男
Ⅱ 会社の資産を把握する棚卸し
(1)棚卸しの意味
棚卸しは、企業の資産を正確に把握し、製造業においては、生産計画を確実に実行するために帳簿上の保有高と実際の保有高を照合することにあります。また、棚卸しを実施することにより、正しく資産状況を把握し、経営が正しくなされており、利益を生んでいることを確認するためにも必要です。通常の業務を中断しても棚卸し業務を優先して行うほど重要な業務です。
製造業においては、日常の原材料の受領、検収、入庫・保管、出庫、供給引渡しなどの業務が確実に間違いなく実施されていれば、簡略化できるはずであり、できるだけ時間をかけない棚卸しを実現したいものです。
(2)棚卸しの目的
棚卸しをする目的には、財務的な目的と経営管理上の目的があります。
① 財務的な目的(財務諸表上の目的)
社内にある製品、半完成品、原材料、在庫品、仕損品、屑、などの資産を棚卸資産といい、棚
卸資産の保有高を正確に把握することが財務的な目的です。
材料管理における棚卸しは、製造部門の担当である製品や半完成品を含めませんが材料管理担
当が管理する倉庫内にあるものすべてを含みます。部品として購入したモジュールやユニット
は、半完成品状態ですが材料として扱いカウントします。
② 経営管理上の目的
棚卸資産がその会社の経営方針に合致するものかどうかを把握することが目的です。経営方針
に合致しない原材料とは、本来会社が持つべきではない、在庫をしていてはいけない販売不可
能な状態の在庫品、不良品、賞味期限の切れた原材料がこれに含まれます。
(3)帳簿棚卸しと実地棚卸し
棚卸しには、帳簿上の棚卸しと実際に原材料の在庫金額を数えて集計する実地棚卸しがあります。棚卸しの対象は、経営管理上は材料倉庫における在庫、製造中の在庫、仕掛品在庫(半完成品在庫)など企業の所有するすべての資材です。ここでは製造のために材料倉庫に保有する原材料在庫に限定します。
帳簿棚卸しは、棚卸資産として保管する原材料の入出庫のたびに記帳し、月末や期末に集計するものです。
実地棚卸しは、月末や期末など定期的に実際に保管する原材料の実際に在庫量を確認し、帳簿上の在庫と照合し、その差の有無を確認するものです。
帳簿上の在庫量と実際に存在する在庫量の両者を比較し、差異の算出と原因の分析を行なうことにより、材料管理や出庫業務の正確さを確認できると共に、不要不適切な在庫の確認把握もできます。
(4)棚卸しの対象
材料管理担当において責任を持つ在庫品すべてがその対象です。(完成した製品の在庫量も重要な棚卸しの対象ですが責任は、製品管理または、製品倉庫担当になります)
(5)棚卸しの方法
① 棚卸しは、原則として毎月決算日(月末など)にすべての原材料について同時に行ないま
す。
② 棚卸票の作成
実施棚卸し後、原材料の現品保有高を棚卸し表に記載します。
棚卸票の記載項目は大体次のようなものです。
日付、担当部課名、品名、数量、単価、金額、評価金額(差額がある場合)
棚卸票は、現在コンピュータで作成し、使用するのが一般的です。
③ 材料元帳の作成
原材料全品について良品、不良品区別などを記載します。
記載項目例
日付、担当部課名、部品名、仕入先、単価、実際在庫、理論在庫、在庫差、繰越在庫、
仕入数、受入数、返品数、出庫数
④ 過不足の処理
実施棚卸による数量と帳簿残高を照合し、その結果に違算、過不足を生じた場合、原因を調
査し、再発防止策をとります。
過不足については、正規の手続きにより処理(修正)を行ないます。(在庫訂正処理)
(6)棚卸しのメリット
棚卸しを確実に実施することで、過剰在庫や不適切在庫と共に原材料に発生するロスを防止することができます。あるべき原材料在庫が帳簿上の数量と合致しない場合は、その差の発生原因を分析し、防止対策を取ります。
数量の不一致の原因として次ことが考えられます。
① 出庫業務に起因するもの
出庫時の数え違い
作業者の不注意による記帳間違い
作業者の不正
設備の異常
② 在庫管理に起因するもの
商品や原材料の取り扱い不備
事務手続きの不適正
計算違い
③ 仕入時に起因するもの
検収の不適正
仕入先のミス
仕入先の包装梱包などの相違
計算違い
④ その他 棚卸しに起因するもの
棚卸しの不適正
棚卸しを確実に実施することにより、帳簿上の在庫と実際の在庫量の差を確認し、原因を見つけ出すことで在庫管理のどこに不備があるかを発見できます。効果的な仕入計画は、どのようにすべきかを検討することができます。過剰在庫は、その期間に賞味期限切れなどの原因となります。適切な在庫量を確保することで原材料のロスを減少できます。このように棚卸しを通して多くの改善提案を行い、経営上のロス防止に結びつけることもできます。
(7)棚卸し業務の注意点
① できるだけ効率よく、短時間で終了できるよう段取りすること
② 棚卸し制度の精度を下げ、他部門の信用を落とすので棚卸しの際の数量のカウントミスは決
して起こさないこと
③ 契約や調達担当の発注ミス及び原因不明で蓄積された不要な在庫をリストアップし、定期的
な棚卸し業務にて報告し、これらの原材料の売却や廃棄処分を提案・提言を実施し、経営に
貢献できます
(8)原材料の動きと棚卸しで問題在庫の発見
原材料の毎日の入庫と出庫を注意深く観察していると不適切在庫などの問題に気がつきます。例えば、長期間全く入出庫がない原材料が見つかります。棚札の記録を見れば、何年も前に入庫し、出庫の全くない原材料があります。
原材料の包装梱包の上にほこりがかぶった形跡があれば長期間入出庫ななかったものです。普通の棚卸しでは、全く動きがないために改めて数量を数えることから除外されてしまうために問題として見過ごされてしまいます。これらの原材料は、以前に担当者がミスで発注をしたものが製造部門への出庫がないために残ってしまったものが多いものです。発注担当者は、発注ミスに気がついてもキャンセル処理のタイミングを失して在庫が残ってしまったものや開発設計部門からの依頼で注文したが入庫が遅れてタイミング上不要になってしまうものもあります。これは不良在庫であり滞留在庫となります。
資材管理業務は、生産計画に基づき出庫しますが生産状況により毎日の業務量にバラツキがあります。業務に時間の余裕のあるときに少しずつ棚札をチェックし、これらの滞留品のリストを作成するとよいでしょう。滞留品に関心を示さず放置された原材料倉庫では、その金額が大きくなっているものです。
滞留在庫には、注文して入手をしたが要求の連絡がなく放置されたものなど原因はいろいろあります。しかし、在庫となった原因は発注依頼担当者や発注担当者の移動で追及できない場合も多いものです。原因追求も大切ですがこの種の原材料は在庫しても役に立たないのでできるだけ早いうちに発見し、価値のあるうちに(賞味期限の切れないうちに)売却するなど処分したいものです。
滞留在庫については、そのリストを作成し、開発設計部門において実験用や試作品に使用する提案をすることもできます。用途がない場合は、仕入先や製造元へ販売することも検討します。販売不可能な原材料は廃棄処分もやむをえない場合もあります。経理部門と相談の上処分する時期を決定するのがよいでしょう。
(9)在庫品に関する建設的提言を
上記のように原材料管理部門は、在庫状況の把握と棚卸し業務を通して、会社内の在庫に関する問題を発見し、会社内の財務的に建設的な提言をする重要な役目も持っています。
① 不良品の排除
多くの原材料を扱っていると原材料の在庫の中で取引先へ返すべき原材料や社内に起因する
廃棄する原材料が処分処理がなされずに在庫として残ってきます。定期的に確認してその存
在を明確にし、しかるべき担当部門に処理を依頼します。
② 良品の過剰在庫
生産計画の変更により、予定されていた原材料が使用されずに残されるものがでます。異常
に長い期間、在庫として保管される場合があります。定期的のこれらの在庫を調査し、契約
担当部門と相談し、取引先への返品処理依頼又は、廃棄処分依頼をします。
材料管理担当の業務は、地味で目立たない存在ですが棚卸しを定期的に確実に実施することで問題を指摘し、建設的な改善策を提言することで企業の体質改善に大きく貢献することができるのです。