7 能力を発揮し、利益を創造する資材購買部門へ

イグレン 加藤 文男

 前回まで資材購買担当に対する周辺の見方や評価、そして、近年大きく変わってきた資材購買担当への期待などについて考えてきました。このように資材購買担当に対する期待や評価は、事業のグローバル化と共に為替の変動やグリーン調達なども加わり、従来と異なった法律や化学的知識なども要求されてきています。しかし、昔からの商慣習に見られるように脈々と流れる基本的な精神は日本国内だけでなく世界の多くの人から高く評価されていることも事実です。

(1)資材購買は、まず「三方よしの精神」で

 市場調査により営業部門が製品の販売可能な価格と販売見込み数量(販売企画数)を算出します。販売価格から、利益と販売管理費を減じ、製造原価を計算し、原材料費として使用できる金額の見積原価が決まります。そして、個々の原材料の購入価格に割り当てられます。ここからが取引先との原材料や部品個々の価格交渉が始まります。

 資材購買担当者は、原材料、部品の製造に関して詳しい担当者を相手に価格や購入条件などの交渉を開始します。交渉条件が順調に決定すればよいのですが問題があれば、最終段階では一国一城の主(あるじ)である企業の社長との交渉になります。製造技術に関してはより詳しい企業の担当者、そして、経営に関しては経験豊富な経営者である社長が相手ですからそれぞれの段階において厳しい交渉になるのは当然です。

 資材購買担当者は、製造原価計算についてよく研究し、理論武装をし、取引先と対等に適切な価格交渉ができるように準備をします。製造工程に品質問題が生ずればその原因を一緒に検討し、歩留まりの向上やコストダウンを図る工程の改善提案を提示することも必要になります。製造技術だけでなく、品質管理や品質保証に関する知識も必要になります。品質や価格に関して当方の都合だけで購買することでなく、取引先も利益を確保し、満足していただけなければビジネスを長続きさせることはできないからです。

 資材購買担当者は、自社の品質や価格の目標を達成するために、厳しい交渉で適切な価格を獲得する努力は大切です。しかし、都合のよいときだけ協力を求め、無理を強いるだけでは末永く、取引を継続できません。社会的な情勢や正しい情報を入手し、的確な判断できる能力も必要です。買い手の都合だけで交渉するのでなく、売り手も心から満足し、更にこの商売を通じて地域社会の発展や福利の増進に貢献し、世間の人にも喜んでもらえる「売り手よし、買い手よし、世間よし」という近江商人の三方よしの精神が資材購買の基本になります。

(2)他部門経験者の知識と経験を活かす資材購買

 製造業が事業を継続するには、新製品を継続して製造販売することが必要です。新製品が商品力や価格で市場において負けないためには他社にない特徴や機能を持つことが要求されます。そのため新製品開発過程で新技術、新工法を見つけ出し、評価し、自社で採用することで付加価値を高め、製造コストを下げることが必要になります。すべてを自社で実施することは困難ですから新技術、新工法を持つ優秀な原材料供給能力のある業者を見つけ出し、調達することになります。

 新しい技術や工法を見つけ出し、正しく評価し、採用するまでは簡単ではありません。開発過程で問題が発生すれば現場に出向いて現場を観察し、原因を追究して協力して解決します。資材購買担当者では解決できず、工法については工場部門から製造技術に詳しい担当者の応援を得、技術問題には開発設計者の協力も必要になります。短期間に必要な原材料、部品を開発するために新製品の企画開発の最初の段階から資材購買担当者が参画し、情報を提供し、工場部門や開発設計部門の人たちと協力し、関係者全員が能力を発揮する時代になったのです。

 工場や品質保証部門からは、製造工程の知識と豊富な問題解決経験のある人材を、新技術に対応するために開発設計部門から幅広く高度な知識のある人材を、更に海外企業との取引に対応するために海外部門などからも人材を資材購買部門へ集め、企業の総合力を発揮する必要にせまられてきました。資材購買以外の部門で培った知識と経験をもった人材を活かす必要が出てきたのです。

 グローバル化により世界の市場を相手に厳しい技術競争や価格競争に対応できるビジネスを実践するために製造業の資材購買部門は、個々の課題解決し、利益を生み出すたいへん期待される部門になりました。経験豊富な企業経営の責任者を交渉相手にすることも多くなり、技術的な評価だけでなく、その企業を含めた高度な経営判断も必要になります。企業の第二線や後方部隊として軽く見られていた資材購買部門は、利益を創造する資材購買部門へと大きく変わったのです。

 世界を相手にビジネスを進めるために企業経営に関する知識や経験だけでなく、幅の広い人間性も要求されます。資材購買担当者は、商売上手で成功した近江商人から「三方よしの精神」を学ぶ一方、変化する社会情勢を的確に把握し、これらを社内の情報提供する責任もあります。資材購買担当者は、その立場を理解し、常に自己啓発を図り、事業の総合力を発揮する重要部門の一員として利益を創造する大きな役割と期待に応えたいものです。

掲載日:2015/05/28