イグレン 加藤 文男
新しく配属された部署の仕事内容がどのように評価されるかはたいへん気になるところです。最近入社する際にどのような仕事したのかを聞いて採用する企業もありますが希望に沿った業務を担当させられることは少ないと思います。新入社員が希望にそった職種を担当できることは少ないでしょう。資材購買部門に対する評価がどのように変わってきたかを見ておくのも大切ではないでしょうか。
資材購買業務に対する評価は、企業の大きさ、歴史などにより大分異なります。製造業の資材購買担当者の機能や役割も少しずつ変わってきたようです。大きな流れとしてみてみると、一時の資材調達は、技術設計部門が構造設計や回路設計をし、作成した、図面や原材料リストに基づいて注文書を発行し、納期に間に合うように購入すればよい時代もありました。
1980年から1990年には、円高により、国際調達の必要性も叫ばれ、海外から調達する時代が来ました。最近、地球環境保護のために部品や材料に使用する原料に含まれる化学物質を明確にする規制が加わり、資材購買部門に要求される知識や能力も変わりました。2011年の東日本大震災では、原材料の供給網が寸断し、一部の部品の供給が長期間滞る問題も起きました。更に化学プラントの爆発によって原材料の供給が止まると危機管理として取引先の見直しも必要となりました。ここで資材購買担当者に対する過去の評価や期待の変化について歴史的過程を見ておきたいと思います
(1)近江商人は、「三方よし」で成功
商売上手で成功したのは近江商人であることは有名です。近江商人は、鎌倉時代に始まり、江戸時代、明治、大正、昭和の各時代にかけて活動した近江の国(現在の滋賀県)出身の商人です。最初鎌倉時代には「買い手良し、売り手良し」として活動したのですが江戸時代中期には、「世間良し」に相当する「みんなのことを大切にする」ことを加えて、「三方良し」で商売すべきとなったといわれています。
当方の都合だけで購買することでなく、取引先も満足しなければ、長続きしない。売り手の都合だけで商いをするのではなく、買い手が心の底から満足し、さらに商いを通じて地域社会の発展や福利の増進に貢献し、世間の人にも喜んでもらえる「売り手よし、買い手よし、世間よし」という近江商人の三方よしの精神が基本となっています。自分の都合だけでなく、売り手のことも考え、更に世間のことにも配慮をするという高邁な資材調達に係る精神があったのです。
(2)後方部隊として軽く見られていた資材購買
製造業では、資材購買担当は、設計者が選択し、指定したものを業者から購入するのが基本です。会社によっては、設計者が取引先や購入価格も交渉済みで注文書も作成し、納期管理だけを指示する場合もあります。そして、材料管理担当者は、業者が納入した原材料を受領し、倉庫に入庫して、出庫するまで管理をします。指定された日程に伝票記載の型番を見て材料倉庫の棚から指定の数量を取り出し、使用する部門へ渡す出庫という仕事でした。誰にでもできる単純な作業・仕事と思われ、十分評価されたとはいえない時期でした。
その上、遅くまで残業をして処理する仕事も少なく、定時間以内で終了できる業務として位置づけられたこともあります。会社によっては、健康を害し、厳しい残業や地方への出張ができなくなった人たちの受け皿としての役割をもっていました。製造部門において若い組長や班長などリーダーの指示に従わない使いにくくなった年配者が異動させられた部門でもありました。組織的にも工場の中の一部門として位置づけられて、モチベーションも高いとはいえない部門としての存在でもありました。
このような背景から、1980年当時まで資材購買担当を、「あまり重要視されずに後方部隊として軽く見られていた時代」と厳しい表現をし、あまり高い評価をせず、あまり関心を示さなかった経営者が多かったようです。従来の経営者も資材購買部門の仕事は、重要視されずに優秀な人材を投入することが多いとは言えませんでした。1981年出版された「社長業の心得」の中で著者の田中要人氏は、当時の資材購買など仕入担当者について、「仕入れ・購買の仕事は、他の部門に比べて軽く見られやすい。大会社になるほど、販売や製造などの比べ、購買を第二線、後方部隊として軽く見る傾向が強くなる。」と記載しています。
「それがために一般に良い人材を置かず、組織制度もシッカリさせず、また仕事の性格から、リベートをもらうとか、付け届けや接待攻めで高い商品を仕入れ、会社全体をおかしくしてしまう例が後を絶たない。」更に資材購買の立場から「係員の仕入態度は、ややもすると“買ってやる”という押柄に一方的になりやすい。その結果として、仕入先の協力を得られなかったり、十分な説明を聞かなかったり、よい情報が入らなかったりすることが多い。仕入戦略、仕入れの取引の仕方と交渉のうまさで仕入れの業績は大体決まってくる」と分析・評価もしています。
この著者は、社長に対して「社長は、大事なことは押さえ、部下に正しい仕入れの生き方を訓練・教育することが大事である。これをやらないと、相手につけいれられて、部下に悪い癖をつけさせ、結果として、高いもの、不向きなものを買わせられるようではいけない。自社の仕入れ、購買部門が正しいしっかりした生き方かどうかを良く見直さなければならない。」と購買部門の躾と教育の重要性を強調しています。
(3)「利は元にあり」として重要視された資材購買担当
一方、松下電器産業株式会社(現パナソニック)の創業者松下幸之助氏は、資材購買担当者の役割を「利は元にあり」として、「仕入れ」という表現で資材購買機能の重要性に理解を示し、たいへん重要視していました。
PHP研究所編 松下幸之助著「一日一話」からそのまま紹介します。
昔から「利は元にあり」と言う言葉があります。これは、利益は上手な仕入れから生まれてくると言うことだと思います。まずよい品を仕入れる。しかもできるだけ有利に適正な値で買う。そこから利益が生まれてくる。それを「利は元にあり」いったのでしょうが、実際、仕入れはきわめて大事です。ところがこの「利は元にあり」と言うことをともすれば単に安く買い叩けばよいと言うように解釈する人があるようです。決してそうではなく、仕入先を品物を買ってくださるお得意様と同じように大切にしていくことが肝要だと思います。そういう気持ちがないと結局は商売は繁盛しないと言えましょう。